研究者になるためのコスト


文系の場合であるが、半年ほど前にやったやつより、もうちょいきちんと調べて試算してみた。
修士課程2年・博士課程3年を終えて、運良く直ちにアカポスに就けた、またはOD3年間は運良く学振が取れて、その後直ちにアカポスに就けたとする(そんなのは少数派だが)。
たとえば東大文系の場合、この間の授業料は約52万×5年、入学料は約28万×2回で、計320万程度だ。
私学の場合、もちろんさらに高くなるが、あくまで少なめに試算しておく。


さて、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」によれば、23〜27歳の平均年収は大卒で100人以上規模の企業に就職したとして、およそ350万くらいと見積もるのが適当だろう(これも控えめの見積もり)。
つまり、大学院期間中に350万×5年=1750万を稼ぎ損なうわけだ。


これで合計2100万円の持ち出しである。
さて、大学院期間中に旧育英会・現日本学生支援機構の一種奨学金が、仮に運良くとれたとしよう。
87000円×12か月×修士2年+121000円×12か月×博士3年=約640万円。
将来的に大学教員になれたとすれば、返還を免除される(はずですよね、今でも)ので、先の2100万からこの額を引いて約1450万。
研究者になるためには、どう少なく見積もっても最低限1500万円程度のコストがかかるわけだ。
むろん、場合によっては授業料免除になる場合もあろうが、私の場合、旧育英会奨学金はとれたが、授業料免除にはならなかった。


これはあくまで最低限のコストである。
これだけのコストで済む人は、ごく少数派だろうと思う。
28〜30歳の3年間をODですごすとなると、この間の平均年収逸失額は1000万を軽く超える。
30歳をすぎて、業績的には申し分ないにも関わらずODという方も決して珍しくはない。
かつ、本をすべて図書館から借りて勉強するというのも理屈の上では可能だが、本を買わずに勉強するというのはかなり苦しい。
そうした必要諸経費(本代だけではない)が、私の経験からすれば、少なくとも年間50万はかかるだろうと思う。
ODせずに就職でき、必要諸経費除くと考えて、最低1500万円という額である。


さて、きわめて運良く28歳で就職でき、65歳で定年と考えて(定年年齢は今後引き下げられるだろうが*1、それもあえて無視する)、世間の年収相場より40万は高い状態が続かないと、この最低限1500万円のコストすら取り返せない。
30代前半の大卒者で、さらに係長などの役職についていないとして、年収平均450万円である。
だから、30代前半で年収500万が最低ラインの賃金ベースということになる。
断っておくが、450万というのは旧帝大、有名私学の卒業者の年収額ではない。
そんなことを言い出すと、世間相場よりン百万以上高い状態が続かないとならないことになるから、それは言わないことにする。
おおよそ大企業の相場に比べると、大学教員の年収など比較すること自体が間違っとるのだ。
私はH報堂という大手広告代理店に勤めていたことがあるが、かつての同期と年収の話などしたくない。
ちなみに私は39歳助教授で給料はいい方の大学に勤めているが、現在の年収は、H報堂の30歳ちょいくらいの額である(まあ、彼ら彼女らは私よりきつい労働環境に身を置いてはいるが)。
さらにちなみに、先の年収500万という額は、私の場合、入社3年目で超えた(まあ当時はバブルだったし、おそろしい残業時間の残業代が含まれていたのではあるが)。


さて、博士課程まで出たはいいが、アカポスに就職できなかったとしよう。
その時点で、奨学金640万円は借金と化す。
40歳も近くなって当面のところ無職かパートタイム労働者、借金640万という状況を想像していただけばいい。
これは相当に苛酷な状況ではありませぬか。


研究者になるためのコストとリスク(繰り返しますが、以上はこれでも控えめすぎる試算です)を考えると、われわれ大学人はもう少しこの大学業界を目指すことのインセンティブを増すよう、何とかせねばならんのではないですか。
むろん、賃金面だけ考えると、もとからやってられない業種なわけで、それでも私は転職してこの職を目指したわけで、仕事内容としては少なくとも私のような人間にはそれだけの魅力あるものだったわけで。
それにしても、である。
大学業界は構造不況の状態にあり、今後、業界全体としてリストラ(首切りという俗な意味での)が進んでいくんでっせ。
どうするよ。
このままじゃ優秀な研究者=後継者など育つはずもありませんぜ、ますます他業種に流れていくばかりで。
研究者を目指す若い人たちのモラール、モチベーションの高さをあてにするには、もはや限界がありすぎる。


しかし、口先で「問題だ、問題だ」とがなってばかりいても、かっこわるいだけなので、もうこの話はやめる*2

*1: 定年年齢が引き下げられないとすれば、その分だけ若い人のためのポストが空かないことになる、というジレンマもある

*2: てゆうか、ここのとこの多忙の疲れとストレスの蓄積で、文字どおり目眩と吐き気のする状態に突入しているので、はてなの更新もしばらくやめる。ついでにタバコもやめられるものならやめたい。疲れとイライラで今日の講義もさほどうるさいほどでもない私語にキレちまった。ごめんよ(私語したヤツにでなく、他の受講生のみんな、話が30秒中断しちゃってさ)。講義のテンションと質も落ちとるし...orz