私の卒業論文(2)

http://d.hatena.ne.jp/dice-x/20070208#p2 のつづき。

 スカラー的尺度によるプロトタイプモデルとベクトル的尺度によるプロトタイプモデルの比較 Reedのプロトタイプモデルによれば新しい刺激(非提示刺激)の範疇分類は次の数式で表わされる過程によって行われる。
Decide Xj ← Category 1 if:
 (\sum_{m=1} ^d wm^r | xjm - p1m | ^r) ^{\frac{1}{r}}  \leq  (\sum_{m=1} ^d wm^r | xjm - p2m | ^r) ^{\frac{1}{r}}


m…多次元空間の直交軸のsubscript(ここでは刺激の各属性値が直交軸にあたる)
xjm…範疇分類の対象となる新しい刺激Xjのm軸上の値(言いかえると刺激Xjのm番目の属性値)
d…軸(次元、言いかえると属性)の数
r…Minkowskiのr-metric法におけるrの値(r=1…city-block距離、r=2…Euclid距離 になる)
wm…各軸の重み付けの値(重みの値の設定はSebestyen, 1962による)
p1m, p2m…範疇1、2のプロトタイプ刺激P1、P2のm軸の値(p1mはP1のm番目の属性値にあたり、この場合、範疇1の各提示刺激のm番目の属性値の平均値になる)


※この不等式の左辺で刺激XjのP1までの距離を、右辺でP2までの距離を計算している。また不等号の向きがかわると、刺激Xjは範疇2に分類されることになる。


 上の数式に基づく分類判断の過程を前提とし、次の場合の分類について、スカラー的尺度によるプロトタイプモデルの予測とベクトル的尺度によるプロトタイプモデルの予測を比較考察する。
 まず、プロトタイプと、刺激間の“異なり”の表し方について次の三つの仮定をおく。


 [仮定1]範疇1と範疇2のプロトタイプに相当する刺激をそれぞれP1=(p11, p12, ..., p1m)、P2=(p21, p22, ..., p2m)とする(pcmは範疇cのプロトタイプ刺激のm番目の属性の値)。またpcmは、Reed, 1972に基づき、範疇cの全刺激のm番目の属性の値の平均値とする。
 [仮定2]刺激Xi=(xi1, ..., xim)と刺激Xj(xj1, ..., xjm)の異なり方をベクトルVij=(xi1-xj1, ..., xim-xjm)で表わすとする。平行なベクトルはある種の同じ方向性をもった異なり方を表すと考える。
 [仮定3]範疇1と範疇2の異なり方を、要素1〜mそれぞれにおいて、範疇1と範疇2の刺激の異なり方のベクトル全てについて平均した値をもつベクトルVc1c2で表わすとする。


 以上の仮定により、途中の計算は省略するがVc1c2=(p11-p21, ..., p1m-p2m)が導かれる。つまり範疇1と範疇2の異なり方はそれぞれのプロトタイプの異なり方で表わす事ができる。
 ここでP1からの距離がdでP2からの距離がd'である(d < d')範疇1に属する刺激X1, X1'と、同様にP1からの距離がd'でP2からの距離がdである範疇2に属する刺激X2, X2'を仮定する。またV12V1'2'Vc1c2と平行、V12'V1'2Vc1c2と平行ではないとする。
 以上の仮定に基づく刺激、X1とX2、X1'とX2'を対提示した場合(範疇1、2間の同じ異なり方を刺激間で示す2刺激を対提示する場合。以下、提示条件1と表す。)とX1とX2'、X1'とX2を対提示した場合(範疇1、2間と違う異なり方を刺激間で示す2刺激を対提示する場合。以下、提示条件2と表す。)でのスカラー的尺度によるプロトタイプモデルとベクトル的尺度によるプロトタイプモデルの予測の差は次の様に考えられる。
 スカラー的尺度によるプロトタイプモデルではX1, X1'はそれぞれP1までの距離がd、P2までの距離がd'で同じなので同じ確からしさをもって範疇1に分類される。X2, X2'に関しても同様に同じ確からしさをもって範疇2に分類される。よって距離に関しては提示条件1も提示条件2も同じ情報が与えられるので、両条件の間で差はでないと予測される。
 ベクトル的尺度によるプロトタイプモデルでは提示刺激間の異なり方に関する情報も利用されると考える。したがって提示条件1ではVc1c2V12v1'2'が平行であるので、提示条件2より、X1, X1'は範疇1に、X2, X2'は範疇2に分類されやすいと予測される。
 よって提示条件1と提示条件2における分類反応に差がみられないならばスカラー的尺度によるプロトタイプモデルが支持される。また提示条件1において、刺激X1, X1'の範疇1への、刺激X2, X2'の範疇2への分類反応が多ければベクトル的尺度によるプロトタイプモデルが支持される。


はてなTeXの数式表記が使えるので、こういうとき便利だ。
しかし、簡単な(高校生でもわかる)数式のはずなのに、今ではもひとつちゃんと理解できなくなってるのが情けない...orz