ボードPCというマーケティング戦略

vaioがこういう↓PCを出しまして。
http://www.vaio.sony.co.jp/Products/Concept/Vision/


隊長が「それはノートパソコンではいかんのでありましょうか」と疑問を呈しておられます。
http://column.chbox.jp/home/kiri/archives/blog/main/2006/04/27_073647.html

個人的には、いかにも部屋のインテリアにも使ってください的なライフスタイルの提案らしきものであるにも関わらず、普通”箱”を卒業しようと思っている”箱”ユーザーは大抵パソコンを使う専用のスペースをどうにか捻出しているように思う。その周辺にはそこでパソコンをこなすための機材が充実していて、部屋の中で(例えば食卓で)パソコンを使おうという動機そのものがないような気がするのである。


私もノートPCでよさそうだよねとは思うものの、「部屋の中で(例えば食卓で)パソコンを使おうという動機」はあると思うのです。
WIP(World Internet Project)の日本研究班が2003年におこなった調査によれば、自宅インターネット利用者のうち、パソコンを置いてある部屋(複数回答)は「家族全員が使える部屋(リビングや居間など)」が60.5%と圧倒的で、「自分の部屋(個室)」26.9%、「〃(兄弟などと一緒の部屋)」1.6%はむしろ少数派。
パソコンも「自分専用」は31.7%で、「他の家族と共用」が67.7%を占める。
隊長が次のようにおっしゃるのとはむしろ逆に、あまり個室的空間に特化した利用にはなっていないように思えます。

昔、テレビにパソコンが繋がると称してコケた商品が別のメーカーから出ていた記憶があるが、あくまで感覚としてテレビが居間から出て逝って各人の部屋に置かれるようになったのとは対照的に、ノートを含むパソコンは固有の場所や喫茶店などの落ち着く外出先で、ベッドの上や飯喰いながらは携帯端末で、といった棲み分けになっててこのコンセプトはどうなんだろうと感じた。


むろん居間にあるテレビが、かつて家族視聴(集団視聴)をもっぱらとしていたのとは違って、2005年にわれわれのおこなった全国調査によれば、「自分ひとりで利用することが多い」が35.6%を占め、「家族と一緒に画面を見ながら利用することが多い」は4.8%、「どちらも同じくらい」3.9%を含めても、1割にも満たない*1
仮に居間でいっしょにいたとしても、別々の(情報)行動をおこなっているということでしょう。
ちなみに「ウェブを見る」時間のうち平均16.8%は「テレビ」を見ながらおこなわれてます(自宅で「ウェブを見る」時間に限定すれば、テレビとのながら率はさらに上がると思われ)。ネットテレビなるものがかつてコケた理由の一つはそれ(ながらでテレビが見られない)かな、と。


PCやネット=個室的空間での利用という、隊長のような感覚は、けっこう広く共有されているものではないかと思うのですが、個人的に興味をそそられるのは、こうした感覚と先に示したような平均的利用実態とのギャップがどうして生じるのかという点。
要は、ネットの有名人やヘビーユーザに独身者(+夫婦世帯)が多く、数のうえでは決して少なくない子どものいるような家庭での利用、ライトユーザの利用と乖離が生じているということではないかと思うのですが。


vaioに話を戻すと、CMの「ロフト篇」は単身者and/orカップル、「クレヨン篇」は子どものいる家庭をターゲットにしているだろうと考えられます。
クレヨンで描くのは子どもの手ですし、ボードPCの横に置かれている写真は、母+娘+ペットという家族構成をほのめかしている(なぜ父はおらぬのか(泣))。
で、母+娘+娘(+私はペットか(泣))という似た家族構成の我が家の場合、PCは居間に置かれ、もっぱら居間で使われております。
周辺機器はほとんど必要なく、たまにプリンタが必要となるくらい。
それも無線LANでつなげてしまえば別室にあっていい。
チビたちが宿題したり遊んだりしてる横で、メールとネットショッピングができれば、ほぼ我が家の需要は満たされます。
個室にあるより、キッチンの隣で、テレビもある居間にあったほうが、何かと使い勝手はいい。
外に持ち出して使う必要など、ほとんど想像すらできないので(私は必要ありますが、そのためには仕事用のノートPCがある)、今使っているノートPCを買い換える際には、このボードPCは十分魅力的です。
19型だと、寝室に持っていってテレビ見るのにも使えるし、テレビを買うお金と置くスペースの節約にもなるな、と(ただ、キーボードとマウスが独立しているので、持ち運びの際にそこが不便だから、一挙に運べるように工夫したほうがいいと思う>vaio)。


こういう平均的で、情報社会論的にはあまりおもしろそうなネタに乏しいネット利用・IT利用が、それゆえに情報社会論(やその関連分野)からはどうも取りこぼされているように思える。
しかし、ジャーナリスティック、アカデミックな情報社会論から取りこぼされる、そうしたもう一つの平凡陳腐な「リアル」を、マーケティングはきっちり掬い取ってくるわけで。
vaioマーケティングが成功するかどうかは知りませんが、それら――ジャーナリズムやアカデミズム/マーケティング――の(「リアル」の)断層が、ヘビー/ライトユーザの(「リアル」の)断層と併せて、ちょっと気になる今日この頃。

*1:残りは「自宅では利用しない」が52.1%。「自宅では」とありますが、「自宅でも」(職場やその他の場所でも)利用しないを含みます