ミルグラム≠6次のつながり

認知科学』最新号(12巻1号、2005年)の特集は「認知科学オントロジー」。
オントロジーといっても哲学用語でいう存在論ではなく、工学用語。ま、ここではおおよそ辞典くらいに考えればよい。その辞典の項目に「ソーシャルネットワーキング」があり、次のような説明が(p.16)。

元々は人と人とのつながりを示す言葉であるが、最近ではインターネットなどを介したデジタル空間上での人同士のつながり、あるいは、人同士のつながりを電子的に支援するサービスを表すことに用いられる場合が多い。
6人の人を介すれば地球上のすべての人がつながることを社会学者のミルグラムが示した(6次のつながり)。電子的な支援としては不特定多数を相手とする「出会い系」と紹介による「知り合い系」との二通りがある。

(強調は引用者)

だから、ちがうって。ミルグラム自身は「地球上のすべての人」が6次のつながり(6次の隔たり six degrees of separation)で包含されるなんて、示してないし、言ってないって(厳密には)。
http://japan.cnet.com/column/mori/story/0,2000050579,20074758,00.htm
via id:hidex7777:20041009#p4
via id:hidex7777:20050302#p1
via id:hidex7777:20050307#p1
さすがに学術的な辞典の位置にあるものに、この解説はまずいのではないかと。編集委員会にメール送っとこう。


ちなみに原典(と思われるもの)は、
Stanley Milgram, The Small-World Problem, Psychology Today, vol.1-no.1, pp.60-67, 1967
それに基づくなら、この項目解説部分の問題点は、次の通り。

  1. この論文におけるミルグラムの問題意識自体は確かに"Given any two people in the world, person X and person Z, how many intermediate acquaintance links are needed before X and Z are connected?"から出発しているが、少なくとも結論として「世界(地球)中の人が6次でつながる」という主張はしていない(下記のような問題点があるために主張を控えたと思われる)
  2. ミルグラムの実験調査は、アメリカ国内の範囲でおこなわれたもので「地球上のすべて」とはいえない
  3. その実験調査で、Nebraskaから発送された手紙のうち、Massachusettsのtarget personにたどり着くことに成功したのは160通中44通にすぎず、この点で知見は限定的
  4. ミルグラム自身が取り出している数値(target personにたどり着くまでの仲介者数のメジアン)にしたがうなら、「6人の人を介すれば」ではなく「5人」。「6」は、X→a→b→...→Zという仲介段階(→)の数


【追記】日本認知科学会の橋田編集委員長から速攻でメールが返ってきました。次号で修正し、「認知科学辞典」本体に反映させたいとのこと。ありがとうございました、橋田先生。