問いかけとしての「ジャーナリズム」


私は基本的にあまりジャーナリストやらジャーナリズム研究者が好きではない。
それはたぶん、彼ら彼女らが「正義」やら「真実」やらをベタな肯定形で語りあげがちだからだと思う。
ひょっとしたら私が高校〜大学生期をすごした80年代のアイロニカルな「感性」がそれに拒絶反応を示しているのかもしれない。
まだ学部生だったころ、NHKにOB訪問に行って「きみねー、ジャーナリストたるもの(だったかメディア人たるものだったか)、うんぬんかんぬん」というお説教をくらい、うんざりして即、広告志望に腹を固めた人間なもんですから(笑)。


F先生は、そういうベタな肯定形のジャーナリストとはまったく別のタイプの人だ。
私なりに形容すれば、「疑問形のジャーナリスト」というか。
むろんジャーナリズムは「真実」を伝えなくてはならないし、論説のような「正義」の主張も必要ではあろう。
しかし、それら「真実」「正義」の肯定命題は、「答え」として提示されるべきものではない。
むしろそれらの命題に対する「問い」を(いわば命題的態度のレベルで)開いていくためにある。
「結論」ではなく「前提」を提示するためのジャーナリズムともいいかえられるだろうか。


一昨日は少年犯罪報道の話もしたのだが、たとえば、そこに欠けていたものは何か。
「私たち(の社会)は子どものコンセプトを変えるんですね?」という話(「問い」)だ、とF先生はいう。
私もそう思う。
01年の少年法改正は、単なる法の一つ(の改正)だけの話にとどまるものではない。
「保護すべきもの」とされてきた子どものコンセプトを変えるということだ。
その変更を、これまでどおりに「責任能力」の有無という物差しではかるなら、選挙権を与える年齢を引き下げる等々の話がでてこないとおかしい。
選挙権うんぬんはそのままにするなら、別の新しい物差しで少年法のみの改正を正当化しなくてはなるまい(言うまでもなく、それは単に「少年犯罪の凶悪化」と言うだけでもって正当化できるものではない)。
この手の話は、社会科学ではいわば常識のひとつとも言えるだろう。
が、そういう話が少年犯罪や少年法改正をめぐる報道のなかには、ほとんど反映されなかった(むろんその責任の一端は社会科学者の側(の端くれたる私)にもあるが)。
「子どものコンセプトを変えるということはこれこれこういうことになりますが、そういうこととして変えるんですね?変えていい/変えるべきなんですね?」という問いかけがなかったのだ。


少年犯罪が本当に凶悪化・増加したかどうか、などなどの話は、ある意味でこの問いの前提をなすだけのものにすぎない。
この前提をできるだけきちんと検証、検討し、提示していくのが、とりあえずは「アカデミズム」だろうし、私はここのところのしごとをちゃんとやっていきたいと思っている。
しかし、それは問いかけのなかでしか意味をもたないし(と言い切ってしまうと語弊もあるが)、問いかけを問いかけとして機能させていくのが、とりあえずは「ジャーナリズム」であるだろう。
「ジャーナリズム」とは問いを先導していくものであって、答えを先導するものではあるまい。
森達也さんのような優れた問いを先導するドキュメンタリー作家に、しばしば的外れな批判が投げかけられたりするのも、それを素直に問いとして受けとめられず、そこに答えを探してしまうことによるのではないか。
受け手も「答え」ばかりを探し求めていすぎはしないか。
俗流の「メディアリテラシー」論・教育に、私が違和感をかんじるところもそこにある。
私は、メディアリテラシーとはメディアのなかの/なかに問いを読み解く能力だろうと思う。
メディアはこーゆーふうに「誤った答え」を提示してきますから、こーゆーように「正しい答え」を読み解けるようになりましょう、てなことやってどうすんだ、って気がするのだ。


F先生は、もろ50代半ばの「団塊の世代」でもある。
ここで言ったことの舌の根も乾かぬうちにで恐縮だが、あたりまえのことながら、どの世代にもちゃんとしたまっとうな人はいるのだ(むろん、おかしな人もどの世代にもいる)。
私のような世代論からすれば、F先生はその世代の「例外」にあたるわけだが、しかし、その「世代」にあって、全共闘にもあえてコミットすることなく、ジャーナリストの途を歩み進めていきえた人の、勁さというかしなやかさというか、そういうものを感じさせられる。
そういうものも、「例外」に反映されたその「世代」の特性として、やはりきちんと見ていかなくてはならないのではないかと思う。
たぶん、世代論が暴力的なものにならないためには。
てゆうか、私もF先生のようなちゃんとした大人になりたいのよ、できることなら(38にもなって何を言うだが)。


卒業生諸君、おたがいちゃんとした大人になりましょうね。
私もがんばります。
口先だけでエラソーなことをよく言ってしまった気がしますが、私もまだまだちゃんとした大人になれてないんで。
いや、みんなのほうがよほど大人だったかも。
ううー、やっぱり気分は下向きモードに入っちまってる...